茶事とは 本来、一服の濃茶を美味しく味わって頂くために、あらゆる心くばりや究極のおもてなしを行う正式なフルコースの茶会です。
水から湯を沸かし、掛物を掛け、花を生け、香を焚き、懐石を出し、一瞬の時に全神経を集中させ、一椀のお茶を深く味あって頂く。あらゆる準備や心くばりをおこない、知的演出をも生み出す特有なものと言っても過言ではありません。確かに、お茶を飲む、食事をするということは日常のことです。その日常のことに、茶事は創造性を高め、美的文化を融合し、究極のおもてなしの精神を加えた総合芸術と言えます。
風炉中の美しい灰型、 湿し灰の清らかさ、 赤々とおこる炭に香が焚かれると、茶室にほのかな香りがただよいます。季節の料理に懐(ふところ)も温まり、濡れた釜肌から、やがて湯気が立ち、松風が聞こえてきます。 お茶を味わう時の到来です。この瞬間を待つまでの全てが、茶事の醍醐味であり、主客ともに心を寄せ合う一座建立の妙味であります。
お茶事は、初座と後座の2部構成で成りたち、あいだに中立ち(休憩)をはさみます。 初座の部で、炭をつぐ炭手前がおこなわれ、一汁三菜の懐石料理、主菓子が供されます。 その後、一旦、客人は、中立ち(休憩)となり、その間に亭主は、席中を改めます。 鐘の鳴る音で客人は、再び茶室に席入りし、後座の茶席が始まり、濃茶、薄茶と続きます。 詳細は、お茶事のコースをご参照ください。
茶事には時間や状況に応じてさまざまな種類がありますが、浄敬庵では刻々と暮れていく時を追いながら、幽玄な世界へといざなう「夕ざりの茶事」を1年通して行っています。正午の茶事と夜咄の茶事が合体したような茶事で、昼と夜の二つの茶事が同時に楽しめます。自然光や明かりの下で懐石をいただき、お茶席から蝋燭(ろうそく)を灯し、夜咄の席となります。その変化の醍醐味をめりはりもって感じていただけることでしょう。
夕暮れから始まり、夕闇にむけて灯火の下、幽玄な世界が広がります。静寂な中で感性はとぎすまされ、緊張感の中、一椀のお茶を通して、主客ともに一体感が生まれます。闇とほのかな灯りに心がすっぽりと包みこまれ、独特な風韻の非日常空間に酔いしれてください。